それは、1988(昭和63)年に終わりを迎え、はじまろうとしていた。

昭和最後のクリスマス、渋谷公会堂(渋公)では、あるロックバンドが
最後のステージを迎えていた。
バンドはメロディーとビートに光と音を満員の客席に次から次へと浴びせかけ、
大半を占める女性客たちは叫声と奇声、拍手でそれに応える――この光景は渋公
では日常ではあるが、その日をもって解散を迎えるバンドメンバーやスタッフ、
そして観客にとっては記憶すべき特別な聖夜であった。
しかし、もうひとつの渋公を物語るための序章でもあったことは、
当時のここにいた誰もが知る由もない。



ここに、ある記録映画の断片がある。
2008年に公開された『セイム・オールド・ストーリー~20年目の訪問者』
主人公の名前は、チープ広石。肩書はサクソフォーン奏者、シンガー、
音楽プロデューサー。そして、80年代に活躍したLOOKというバンドの元メンバー。

北海道、ニューヨーク、彼が生まれ育った東京を舞台に、ミュージシャンである
彼を通じて20年という歳月の意味を追ったこの映画は、
ニューヨーク国際インディペンデント映画祭で最優秀国際音楽賞を受賞した。

映像の中で彼は、飲料会社による施設命名権の獲得で「渋谷C.C.Lemonホール」
となった建造物の前に立つ。そこは、過去・現在・未来が交差する場所。
そして彼は、記憶をたぐり寄せながら訥々と渋公のこと、
あの聖夜に起きたことを語りはじめるのだった――。


 

彼がいたロックバンドは才能豊かな4人をメインに、サポートメンバーを加えて
日本全国をコンサートツアーで周回していたが、解散を決定して最後の舞台として
選んだのが渋公であった。

たしかに、数多くの公演をこなしてきた彼らにとって、
渋公はコンサートホールのひとつでしかない。
だが、それ以上の、深い意味をもつホールであることも間違いはないだろう。
なぜならその時、映像の背景に彼自身が選んだのが「そこ」だったからだ。



まだ、はじまってはいない。
が、はじまろうとしていた。
何かが動き出すには、ある出会いが必要となる。



(つづく)