その女性もまた、JUNCO & CHEEPを支えてきた。
80〜90年代、スタイリスト/メイクアップアーティストとして
樋口一枝の名と技術は業界で知られていた。
1984年にデビューしたロックバンド・レベッカの女性ヴォーカル、
NOKKOを手掛けていた、といえば理解が進むだろう。
そんな彼女が、現在はJUNCOのヘアやメイクを担当しているのだ。
この出会いは、第3回に登場した写真家、飯塚達央がつくった。
旭川市にフォトスタジオを構えていた飯塚氏はJUNCO & CHEEPを迎えて、
2人の新たなアーティスト写真を撮り下ろすことになっていた。
衣装や髪形などもこれまでの2人と異なったスタイルで記録したい。
飯塚氏は、これまでにもブライダルの撮影で協力を仰いでいた樋口一枝に声を掛けた。
JUNCOとチープ広石は彼女の手によって磨き上げられ、
とくにJUNCOはその後の公演においても彼女の手で彩られていった。

樋口氏は北海道で生まれ、各地を転々とし、
東京で活動した後に米国へ向かった。
帰ってきた先は旭川。
この地で美容室を営みながら、本業の合間を縫って様々な活動を展開しているが、
歌旅座の旭川公演の多くには彼女の尽力と技術が加味されている。
変わったところでは、趣味が高じてJUNCOとともにプロデュースした
淳子乃石鹸は今でも歌旅座グッズのひとつとして人気を博している。
また、地域コミュニティにおける事業にも積極的に関わっていることも
動きを止められないという、彼女の性格を現しているだろう。

過日の9月10日、樋口一枝は渋谷公会堂へ久しぶりに足を踏み入れた。
そこは、彼女の仕事場でもあった。
彼女自身にスポットライトが当たることはなかったが、
華やかなステージに多くのアーティストを送り出してきたひとりだった。
今回、JUNCOをはじめとする北海道歌旅座の面々に、樋口一枝独自の魔法を施した。
観客の目にどう映えたのかは、彼女がもっとも感じているところだろう。
そして、次の動きに向けて走り出すに違いない。
ある映像を見つけることができた。
東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本・中国・韓国の計13ヵ国からシンガーを集めた、
ラーマ9世・タイ国王の在位63周年記念するコンサートの記録。
2009年5月のこと。
同国からのオファーに応えてJUNCOとヴァイオリン奏者の高杉奈梨子が
日本を代表して出演、タイをはじめとするアジア各国に生放送された際の映像だ。
ところで、JUNCOと奈梨子のメイクは現地の人の手によるものだ。
とにかく派手な美粧なのだ。「ケバい」という表現が近い。
(映像では、ダイレクト過ぎるJUNCOのメイクが帽子の影で隠れているのが救いである)
この場に樋口一枝が現場にいたら、すぐさまチークブラシを取り上げて
「あなたは引っ込んでいなさい」と日本語でタイ人を叱責しただろう。
だが、この時点では、彼女とまだ出会っていなかったのだ。