台風が来る。
もうそこまできている。
明日になれば南から雨雲がおし渡ってきて、
この札幌も嵐になるにちがいない。
だから今日中に羊を焼いてしまわねば・・・
「松蔵、火を熾(さか)んにせよ」
(司馬遼太郎作 峠より援用)
8月8日、予定していたOJ(屋上ジンギスカン)を1日早める口実にさもありなん。
8月9日はディスカバリーファーム社の設立記念日。
DF社が東京都目黒区東山で誕生した時、俺は34歳の夏を迎えていた。
時代は昭和から平成へ、アナログからデジタルへ移り変わる頃である。
あれからオフィスは東京で3回、札幌で4回引越しを繰り返し
今は札幌市中央区のこの部屋で27年目の夏を迎えた。

今日の記念日には設立間もない頃を振り返ってみる事にしよう。
暫しお付き合いを願います。
古今東西の楽器を集めデジタルレコーディングと編集を施し
サンプリングCDというソフトを発売する目的でDF社は始動した。
まず最初に手がけたのは「オンドマルトノ」と言う世界最古の電子楽器である。
1930年代にフランス人のモーリスマルトノが開発し、現代音楽の礎となった希少な楽器。
作曲家メシアンが精霊サウンドとしてこの楽器を駆使した作品を発表した。
精霊サウンド、分かりやすく言うとオカルト、怪談映画に効果音的によく耳にする
キモ〜イ音(チエの寝言のような)ノコギリを弓で弾く音にも似ている。
そんな楽器がまだ現存するという情報を聞きつけ1991年1月渡仏した。
当時、パリにはゲンキが住んでいた。
JUNCOのPV制作でもお馴染み、もう35年のつき合いになる。
彼は同じ音楽業界を経て一身上の思いを胸にヨーロッパ放浪中であった。
(一身上とは女絡みと容易に想像つく)
真冬のシャルルドゴール空港に着きタクシーに乗り込み
片言のフランス語で行き先を告げ彼の住むアジトに向かう。
人生初のパリ滞在は刺激的な日々だった。
翌日から市内の楽器店や郊外の古物商を巡り目的のブツを探し回った。
パリ在住のゲンキの友人達との毎夜のホームパーティー、ワインにも目覚めた。
スーパーで羊の肉を買いフライパンで焼いただけの即席ジンギスカン。
日本から持参した「ソラチのタレ」はやはりスペシャルだった。
このブログを書くにあたり当時の資料をひもといてみた。

♫1枚残った写真をごらんよ ヒゲズラの男は俺だね…
懐かしい。
ゲンキも若い(髪がある)
桃の様な形のスピーカーを搭載した鍵盤が「オンドマルトノ」
そのとなりが中世ヨーロッパの民族楽器「ハーディーガーディー」
スコットランドバグパイプのような音がする。
滞在中に歴史ある多くの古楽器と触れ合うことが出来たのは、
その後のデジタルサンプリング商品化に役立った。
そしてこれをキッカケに俺は世界中を旅する事になって行く。
アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各国にDF社の現地法人も設立した。
思えば人生の夏真っ盛りの時期だったのかもしれない。
今は歌の旅一座を率いて全国ドサ廻り行脚中。
嫌いではない。むしろ好きな方である。
話は逸れるが昔見た映画で「旅芸人の記録」というギリシャ映画があった。
1975年に岩波ホールで公開された。
19世紀末に作られたというギリシャ芝居「羊飼いの少女ゴルフォ」を引っさげ、
旅芸人達がギリシャ全土を旅する物語。
何ともマッタリとした眠くなるカメラワークとストーリー展開だが
忘れられない作品のひとつである。
実はJunco&Cheepから歌旅座へ改名する時、その映画のタイトルがヒントになっている。
4時間に及ぶ長編作品。
興味のある方は是非ご覧になってください。
必ず寝るよ。
1992年の年賀状にこんな事を書いた。

DiscoveryFirm inc 1992
サンマルタン運河に降る初雪
静寂な時の流れと豪華なパリの街並み
歴史とプライドだけがそこにあった
夏の終わりのニューヨークバッテリーパーク
自由と平和を象徴する女神は
意外にも孤独に見えた
国境に近いモントリオールの晩秋
ジョージウインストンのオータムとワイルドターキー
変わらない旧友がそこにいた
初夏の蒼い風の中
オートキャンプと北海道
大自然と戯れる自分がいた
まだまだ見たいものがたくさんあります
知らない街、新しい人との出会い
未知なる日々にできるだけ多くの可能性と好奇心をもって
今年もディスカバリーです。
元来、ゼロイチ好き(無から有)で、人の後ろをついて行くのが嫌い。
目の前に道はない方がいい。
明治時代、仙台松島から流れた祖父は十勝で劇場や料亭を作り、
その時代を謳歌したらしい。
隔世遺伝なのか、俺の半生をみて齢(よわい)90を過ぎたオフクロがあきらめたように嘆く。
「あんたは死んだじいちゃんに似てる」
紆余曲折、悲喜交々ありながらも好奇心と可能性を抱き四半世紀走り続けた気がする。
そして今も。
今日は札幌ブルース。
大倉山、藻岩山を望み羊三昧。
愛すべき一座のメンバーと関係者を集め
1日早い屋上ジンギスカンを堪能する。
27年目の戯言におつき合い頂き感謝です。
2017 夏 BOSS