『まぁっ!お父様!わたくしの為に買ってきて
くれたの?!嬉しいっ!嬉しいわっ!』
『ウム。少しナニだがな。』
少女は、その袋を大事に抱え、溢れ出しそうな涙を
こらえ走っていった。
『お父様がっ!お父様が!~♬るるるらら~♪』

父は知っていた。娘がソレを激しく好きであることを。
いつか買わねばならぬと思っていた矢先、パソコン
画面を見つめ思い立った。
『そうか。通販がある。』『どうせなら大量に買うか。』
数量ボタンを何度も押し、そのプレゼントを購入した。

物が家に届く。
自分も懐かしくなってしまい、つい手を出してしまう。
『むぅ…。少しナニだが…でもイイな、母さん。』
部屋中に立ち込める思い出の香り。
忘れたくても忘れられない香り。
指についたまま眠りにつくと魘される香り。
隣町の猫が寄ってくる香り。
父はこれを娘にどうしても渡したかったのだ。

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『カレイの干物』。

少女は夕方になると、嬉しそうにその身をほぐし始め、
仲間と一緒に、発泡した飲み物の蓋を開ける。
香りで眠れないことをいいことに、
今日も思い出を刻んでいる。